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ラジオ用番外編
 


 第 ニ 話

# 1-1# 1-2 | # 2-1# 2-2 | # 3-1# 3-2 | # 4-1# 4-2
少し、ここで隠れていよう。
霜が降りてきているのか、地べたが湿っていて、とても冷たかった。

  「アーク・・・エンシエル・・・フィー・・・」

看板に書かれた文字をたどたどしく口にしてみる。フランス語だろうか。
意味はわからなかったが、可愛らしい響きだと思った。
そしてこの看板の下を潜り抜け、友人と共に訪れたあの日の事を思い出す。

お店の戸を開くと甲高いベルの音がして、辺りに甘い香りが立ち込めたっけ。
・・・ん?思い出す?
そんな。思い出すって、そんなに昔の事?
たった一週間か、それくらいの話じゃない?  


再び看板を見た。
童話絵本の挿絵のようなタッチで描かれた妖精の横顔が、こっちに向かって微笑んだ気がした。  

微笑む?私に?誰が?  

右手には赤く錆び付いた刀。左手には鮮やかな青の刃。
狂気を孕んだこんな私に、一体誰が微笑みかけてくれるというの?  

視界が歪む。 涙と一緒に気持ちが溢れそうになった。歯を食いしばった。
そしてそれがこぼれてしまわぬよう、重い首を持ち上げ、上を向いた。  

薄暗い路地、建物の密集した暗がりからようやく見渡せた空には、 左の頬が少し欠けた満月が映し出されていた。
十六夜月が朧げに見えたのは、きっと夜空が曇っていたせいではないのだろう。
朧な景色は、朧な記憶を呼び覚ます。



  「うっわー!ここってば、もうこんなに人気だったんだね〜!」  

隣の少女が嬉々として叫んだ。目をぱちくりさせ、店内をきょろきょろと見回していた。  

カウンターの硝子の向こうに、色とりどりの洋菓子が並ぶ。
陽気なフレンチポップが流れ、手作り感のある可愛らしい飾り物が、店内を彩っていた。
店内のそこかしこから聞こえてくる若い女性の賑わい。  

  「アカ姉、どれにするの?」

隣の少年が聞いてきた。
そのあどけない表情は、まだ何の疑いも知らず、曇りもない。 真っ直ぐに、透き通るような瞳で私の事を見ていた。  

  「・・・ヒロ君こそ、決まったの?」

そして同じく何の疑いも知らず、曇りもなく、そして鼻と喉をつつくような血の匂いも知らない私が答えた。



− 第二話 終 −
 

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