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『智一・美樹のラジオビッグバン』(日曜日:25:30〜26:00 / 文化放送) の番組内で、関智一さんが朗読しているものをテキストにまとめたものです。 |
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シュラキ外伝 「木漏れ日の神子(かみこ)」
8月26日放送分 : 第 十四 話 |
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「ごほっ…かはっ…くっ…」
「おいっ!どうしたんだ?大丈夫か?」
先ほどの戦闘でどこか内臓でもやられたのかと思った。
だが、どうも様子がおかしい。この咳き込み方には、聞き覚えがあった…。
あぁ。数年前に肺を病んで死んでしまった祖母と、同じ咳だ。
「…と、伽乃…お前…」
「くっ…ふふっ…笑えるだろう?人智を越えた力を持つはずの朱羅姫が、
こうして肺を侵され、病魔に苦しんでいるなどとはな…」
「じゃあお前が時々、血を流していたのは…」
「ああ…。この通り。吐血は、私個人の問題。
なんだ?闘いで傷ついたとでも思っていたのか?」
それはそうだ。出会い頭に軍隊に追われている所を見てしまったのだから、
加えて、伽乃は今、自分自身の事を、朧神の伝承に伝えられた、
闘いに身をやつす朱羅姫そのものだと、認めたばかりだ。
「…あの程度の相手など露程にも感じぬ。軽く蹴散らせる。
だが、奴らは本当にしつこくてのう…。昔から軍に協力しろと再三要求してくるのだが、
拒むと力ずくで拘束しようとしてくる。私はその度退けてきた。その繰り返しさ」
「協力…しろ、だと?」
「朱羅姫の戦闘能力は一騎当千と言われている。この、きな臭い時代。
我等の力は、戦力として、喉から手が出るほど欲しい代物、というわけさ」
なるほど。朧神と朱羅姫について調べる事がお国の為に繋がるとは、こういう事だったのか。
何のことはない。兵器として、朱羅姫を手に入れたかった。ただそれだけ。
来るべき戦時に備えて、力を調達しておきたかった。
つまり、私がしてきた研究、それは軍備。
弟が言っていた。
「西欧列強がにらみ合い、米国がアジアに銃口を向けているこの時代で、
個人の趣味にも近い伝統芸能の研究を許された兄貴は、幸せものさ。
俺も、お国の為に頑張るから、兄貴も…頑張れよ」
「なんだ…俺も同じじゃないか」
全身から力が抜けていくのを感じた。
その時、遠くから革靴の足音が幾つも近づいてきた。 |
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