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『智一・美樹のラジオビッグバン』(日曜日:25:30〜26:00 / 文化放送) の番組内で、関智一さんが朗読しているものをテキストにまとめたものです。 |
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シュラキ外伝 「木漏れ日の神子(かみこ)」
5月27日放送分 : 第 四 話 |
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「ほ、本当ですか?私の研究が・・・そ、そんなに評価されたんですか!?」
あれは昭和十一年の三月のこと。
大学の社会学部で民族史を学んでいた私は、卒論用の研究として
「伝統芸能の起源と民族に与える影響」という課題に取り組んだ。
その成果が認められ、特別に研究機関が作られると聞いたのは、卒論を提出してから一ヵ月後のことだった。
最初はもちろん半信半疑だったが、
教授の側に控える校長と将校を引き連れた政府の役人を前に、
あながち彼らが私をからかっているとは思えなかった。
「まさか、冗談でそんな事は言えんよ」
政府の高官が鼻で笑いながら答えた。
上からの物言いが癪に触ったが、それ自体は良い話、いやそれどころか天から与えられた授かり物である。
些細な言い回しなどを気にしていられる筈ない。
「あ、ありがとうございます!」
私は紅潮した顔で答えた。
それから数日後の事。
「しかし兄貴も大したもんだよな」
実家を出るため荷造りをしていると弟が言ってきた。
「まあな。俺だって驚いたよ」
「お上(かみ)も今のご時世、よくそんな道楽の研究に金出す気になったもんだ」
「おい、冗談でもそういうのは止した方がいいぞ。」
「だってそうじゃないか。西欧列強がドンパチやってる今、
この日本国(にっぽんこく)にもいつ火種が飛んでくるとも限らない。
田舎の方じゃ配給食も行き届いてないって時に伝統芸能なんか追求してどうなるってんだ?」
確かに弟の言う通りだった。
この数十年日本国(にっぽんこく)も欧米に並び軍備を推し進め、その勢いはとどまる所を知らない。
自分で言うのも何だが私の研究は何の金にもならない、趣味の延長でしかなかったのだ。
この暗雲落とされた世の中で好きな事に打ち込める、そして、
それを後押ししてくれる人がいる事に、私はこの上ない幸せを感じた。
「兄貴、帝都に行っても、身体だけには気をつけてな」
弟はそう言って部屋を出て行った。
彼もまたその後しばらくして、徴兵の召集がかかり、実家を出て行った。
そして、私は帝都へと向かった。
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